12月生まれのあのこ
花屋の店先にはポインセチアが並び、雑貨屋の前にはカーテンライトやオーナメントが飾り付けれている。もうそんな時期だっけ?と班のひとりが呟いた。
「そっか、もう12月だもんね」
艶やかになった街を見て、の声は弾んでいた。
時折木枯しが乾いた落ち葉を吹き荒らし、ツンとした空気を運んでくる。街の人々は両手に買い物袋を下げ、寒さを凌ぐように俯き加減に身を縮こまらせる。忙しなく通り過ぎていく様を見て、班の男が声を上げた。
「そうだ、おでん食べに行きません?」
醤油と出汁の香りがほのかに香り、すっかり忘れていた腹の虫が目を覚ます。「お、いいね〜!」「いこういこう!」と乗り気な声がカカシに耳にも入ってくる。そこで冷静なくノ一が待ったをかけた。
「それはいいけど、この人数で皆座れると思う?」
小隊二組。計八名の席を巡り皆入れそうな店を思案する。
「ならば……行けない人、手ーあげて!」
言い出しっぺのひょうきん者の提案に、ひどい案だと言いながら笑い合う。その様子を最後尾で見ていたカカシはおもむろに口を開いた。
「はーい。」
すっと挙手をすると、が驚いた顔をした。
「カカシ、行かないの?」
「ん。」
班の面々もまるで鉄砲玉でも食らったように呆けた顔をする。
「悪いけど、ここ二人はパス。6人なら何とかなるんじゃない? そんじゃ、お疲れさまでした」
は挙手をした左手とすっかり面食らった同僚たちを交互に見つめる。手を下ろし、彼女と共にくるりと回れ右をする。背後がどうなっていようと知ったことではない。
「ねえ、大丈夫かな?」
しばらく口を一文字に閉ざしていたがそのようなことを呟いた。
「ちゃんと“おつかれ”って言ってきたから大丈夫だって」
「そういうことじゃないよ」
「じゃあ何?」
「だって、手……皆の前で」
と、は不自由な片手の指先をもじもじと動かした。すっかり冷えていた彼女の指先も今はほんのり温かくなっている。
「ねえカカシ。そんなに嫌だったの? おでん屋」
「おでん屋は別にいいよ」
「じゃあ何?」
の問いかけにカカシは思わず口を噤む。
みんなでおでん屋へ行くのを阻止したかったから。
さり気なくの隣に座り、べろんべろんに酔っ払った彼奴等が目に浮かぶようだったから。
クリスマスの飾り付けにキラキラと目を輝かせている姿を見ていたのが自分だけじゃなかったから。
理由は考えれば考えるほど山のように出てくるのだが、生憎には想像のつかないことのようだ。
「誕生日だから」
酔っ払いたちに絡まれて、やれ打ち上げだ、忘年会だ、少し早いクリスマスだとごっちゃになった中で、なんとなく終わるのは癪である。
「……ありがとう」
の小さな声とともに、より確実にカカシの指先を包み込む。
「どこに行くの?」
「おでん屋」
「えっ」
「が嫌なら他のところに行くけど」
「うーうん、私おでんが食べたい」
染みた大根に卵にはんぺん。口と胃袋はすでにおでんの準備ができていると言うに、カカシは小さく笑った。
「実はオレもそう」
ふーふーと熱いおでんを頬張る彼女を想像しながら、カカシはすっかりクリスマスムードに様変わりした街中を歩いていた。