2月生まれのあのこ
任務に天気は関係ない。
とは言うものの、夏は暑いし冬は寒い。特に、木ノ葉の街にも雪が舞う—— そんな日は、山深いこの場所は極寒と言える。
「、場所交代」
カカシの声に、は「まだ、大丈夫です」と言う。こんな些細な会話でもはっきりと白い息が見えた。相当冷え込んでいるようだ。
「まだ時間が残ってますから」
の体内時計は分刻みで動いているのだろうかとカカシは思った。確かに、交代までは時間がある。フォーマンセルのうちの二人は、遠慮なく焚き火の前で横になり夢の中に居るというのに、彼女はとても真面目だった。
「カカシさんこそ、少し休まれてはいかがですか?」
「オレのことはほっといていいの。部下の安全の方が大事」
「でも、私はこの通り元気ですし」
「元気じゃなきゃ困るから」
「それは、そうですけど」
こうして話しながら待機している間も、敵の気配は微塵も感じられない。その証拠に他の二人もとんと起きる様子はなかった。
本当にこんな任務が必要だろうか—— などと、隊長だと言うのにあるまじき考えがカカシの脳裏をよぎる。
「オレ、ちょっとそのへん見てくるから、ここよろしくね」
「了解」
任されましたと言わんばかりのを見ながら、カカシはそっとその場を離れた。
偵察をしていると、またちらりと雪が舞い始めた。
つんとした冷たい空気が頬を撫でる。きっと、今夜も雪が積もるに違いない。
カカシが持ち場へ戻ると、指示通りに任務を遂行していると目が合った。
「お疲れ様です。いかがでした?」
「ああ、変わらずと言ったところかな」
「そうですか」
「こっちは?」
「こちらも特に変わりありません」
業務連絡を終えると、山の中はまた静かになった。
「今夜もつもりそうだね〜」
「そうですね……」
そう言って、はすっかり暗くなった空を見つめた。
そろそろ交代の時間だ。
カカシはそう思いながらも、声をかけずに居た。
は両手を擦りながら、息を当てると、そっとマントの下に忍ばせた。その様子を見ていると、不意に振り向いた彼女と目が合った。
「あの、なにか?」
「そろそろ交代だよね」
「……そうでしたね」
きっと彼女も時間だと気づいていたはずなのに、すっかり深い眠りについてしまった二人を起こそうとはしなかった。
「今夜はつもりますね」
そう言って、彼女はもう一度夜空を見つめた。
焚き火のゆらめきに合わせて、の表情が見え隠れする。時折見せる白い頬に舞い降りた雪がすっと消えていった。
—— 彼女が生まれた日もこんな寒い日だったのだろうか。
「」
「はい……」
それを見たは任務時にはめったに見せない顔で驚いてみせた。
そろそろ日付も変わった頃だろう。
「誕生日、おめでとうね」
「あの、これ……カカシさんが?」
そう言って、まじまじとそれを見つめた。
「他に誰が居るのよ」
「そう、ですよね」
「任務じゃなければもっと他の事を考えたんだけど」
「そんな、十分嬉しいです……ありがとうございます」
カカシの手のひらに乗った小さな雪うさぎを見て、は目を細めた。
そっとそれを受け取ったは、とても大事そうにそれを見つめ、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で「かわいい」と呟いた。いつもは大人びているも、こうしていれば年相応だとわかる。
一つ歳を取る。それは、当たり前であって当たり前でない—— ここはそういう場所だ。
小さくて、雑に扱えば崩れてしまいそうなそれは、この場では不釣り合いな代物でしか無い。
積もりたての雪で作ったそれは、なんだかに似ているような気がした。
そろそろあの二人を起こさなければならない。
頭では分かっている。
分かっているが、
もう少しだけ、こうしていようか。
カカシの脳裏にそんな考えが過っては消えた。
「お二人とも、起きてください」
が声をかけるが、二人はまるで起きる気配がなかった。
—— ああ、なるほど。
カカシはそう思いながら、に声をかけた。
「たぬき寝入りは朝飯抜きって言ってあげたら?」
そう言うや否や飛び起きた二人を見て、は「まったく」と言いながら、くすくすと笑った。