今日は何の日と聞かれたら、ふつうは何と答えるだろう。
スカウトの日、ひじきの日、それともスナックサンドの日。私なら間違いなくこう答える。9月15日は六代目様のお誕生日だと。それから次に、書類の提出日だと答えるだろう。
「失礼します」
「どうぞ」
その声に、私はほっとした。ご在室ということはもちろん、いつもの六代目様の声にほっとした。なぜかこの瞬間だけは必ず緊張するのだ。
「六代目様、今日はその……」
「いつもの申請書でしょ。どれ、見せてごらん」
「あ、はい、お願いします」
差し出した書類に目を通した六代目様はさっと受領印を押していく。一枚が終わり、二枚目が終わり、とうとう最期の三枚目に突入した。六代目様の視線が上から下へと文字をなぞる。その資料も3分の1、3分の2となり、下段へと移っていく。
「……よし、全部不備無し。木ノ葉図書館は優秀だな」
「ありがとうございます」
またたく間に資料の処理が終わり、私は早々に退室しなければならなくなった。まるで3分タイマーのよう。だけど、今日は勝手ながら少しだけ延長を申し出た。
「六代目様、」
「ん?」
「最近、だいぶ涼しくなりましたよね」
「あー、そうだね。あれだけ鳴いてた蝉もすっかりいなくなっちゃって、ここも静かなもんよ。おかげで作業は捗るけど、ちょっと寂しいよね」
矛盾かな、と六代目様は笑う。
「昨晩、庭で鈴虫が鳴いてたんです」
「鈴虫か。いよいよ秋って感じだな」
「そうですね、秋ですね」
そんな話をしていると、窓から心地よい風が入ってきた。六代目様が生まれた日もこんな日だったのだろうか。
言うならきっと今だ。六代目様に準備をした私は息を整えた。こういうことはもたもたしているとカッコ悪い。この風のようにさらりと言うべきだろう。
「六代目様、」
「六代目様!あ、すみません」
何と言ってもここは火影室。雑談終了のゴングは突然だった。バンッと開いた扉を見ると、シカマルくらいの男の子が立っていた。木ノ葉図書館のエプロンを着た私をまじまじと見て、なぜこんな所に居るのかと問いかける。
大事なことはいち早く伝えるべし。
忍の心得にこんな掟があっても不思議じゃないと私は思う。忍でもない私がいつまでも火影室に居るのはおかしなことで、慌ててその場を後にした私は後悔していた。しかし、バレンタインデーとは訳が違う。誕生日は特別だ。相手が忍なら尚更。もし、さっきの忍の報告が大変な事だったら。そう思うと、ますます落ち込んだ。私は大切な機会を逃してしまったのだ。今から戻っても、火影室に六代目様がいらっしゃるかわからない。だけど……。
「」
「ろ、六代目様?!」
突然目の前に立ちはだかった六代目様に、私は右往左往するしかない。
「あの、どうしたんですか?」
「さっき何か言いかけたでしょ」
「あれはその、……」
「大したことじゃないならいいんだけど」
「えっと、だ……大事なことです」
ああ、どうしよう。ああ、どうしよう。なんども同じ言葉が言ったり来たりと繰り返す。今更こんなにドキドキする必要はないのに、まるで告白をする時のように緊張する。これでもかと言うほどに主張する心臓に私はすっかり手を焼いた。
「六代目様、お誕生日おめでとうございます」
六代目様は一瞬固まったように動かなかった。
「大事なことって言うから、あー、その……」
そんな六代目様を見て、つくづく思う。私はとんでもない人を好きになってしまったんだと。
ありがとうと照れ笑いをする六代目様に、私はまたしても心を奪われたのだった。
20-0915 memo掲載