覚悟はしていた。
あれだけ時間を空けたのだ、火の国の樹海のようになっていても不思議ではない。
しかし、火影室のドアノブを握ったオレは即座に言葉を失った。直前までぶーぶー文句を垂れていたナルトも押し黙る。
「綱手のばあちゃんより酷いってばよ……」
二人でその様を見ていると巻物がころころと転がった。その瞬間、オレは潔く扉を閉めた。決して目をそらしたくなったからではない。
本日、既に成すすべなし。そう判断したに過ぎない。
「よし。随分待たせたことだし、ラーメンでも食いに行くか」
もちろんオレの奢りだ。このような状況下ならすぐに「やったー!」と子どものようにはしゃぐはずだが、今日はとんと静かだった。いつしか視線も近くなったナルトを見て思う。もうそんな歳じゃないということか、と。年がら年中ラーメンを食べていた姿に懐かしさを感じる日が来るとは思わなかった。密かに教え子の成長を感じていると、ナルトが言った。
「カカシ先生……早く家に帰ったほうがいいってばよ。忍は体が資本だって」
本当にナルトは成長したようだ。さあ!と背を押されるが、オレはナルトの考えていることが今一わからなかった。体が資本というのなら、今は食事をすべきだろう。
「気遣ってくれんの? 優しいね〜」
すると明らかにナルトの顔がひきつった。「こりゃ熱どころじゃねー、はやくサクラちゃんに言わねーと……」とうわ言のようなことを口にし、そろりそろりと後ずさる。
オレは慌てて首根っこをひっつかんだ。嫌な予感しかしない。
「……まて、ナルト。どういう意味だ」
「だ、だってカカシ先生がラーメンを奢るって……天地がひっくり返ってもおかしくねーレベルだろ?!」
要するに、一大事だと。ナルトはそう判断したらしい。
「はぁ……。別にラーメンの一杯二杯、オレが奢らなかったことなんて……さ、いくぞ」
「マ、マジ? カカシ先生が……あ。今更ウソとかナシ。絶対ナシ!火影に二言はナシ!」
「はいはい。二言無しよ」
オレの顔を覗き込んだナルトはやっと本気にしたらしい。しかめっ面を脱ぎ捨て、シシっと顔を綻ばせる。
「やっぱり持つべきものは六代目様だってばよ〜!」
さすがに抱きつきはしなかったが、馴染みの屈託のない顔で笑った。
「まったく、お前も調子がいいね」
やはりナルトはこうではなくては。
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20-0831 memo掲載