「あー、誰か空いてる者は居ないのか!」
五代目火影が焦りながら言うのには理由があった。すぐそこまで火影の一大事が迫っているからだ。火影は急いで空いていたくノ一を探し出し早速任務の指令を出す手はずを整えていた。
「なに? まあいいだろう。舐められては困るしな」
五代目火影は「このメンバーでは力が余るに決まってる」と言う秘書の言葉を聞いていなかった。とにかく、何がなんでも急がなければならないからだ。
この日の任務計画は一度黒く塗りつぶされ、三名の上忍が一覧に書き込まれていた。項目には『詳細無し』とあった。
—— 遅い。それにしても、遅い……。
心に漏れる文句を隠しきれているかはわからない。
はあうんの門の前で腕組をし、イライラをやり過ごそうと空を見上げた。鷹がぐるぐると木ノ葉の里の上空を旋回している。まるでさっさと任務に行けと言われているようだ。いや、事実そうなのかもしれない。
「あ、そうだ。もう、二人で先に行っちゃうとか」
思わずそんな事を口走ると、今回のスリーマンセルの一人が口を挟んだ。
「まて、。それもいい案だが、急いては事を仕損じると言うではないか。それに、今回の任務は少々遅くなっても問題ない」
「そうですけど……。あ、じゃあ私帰りますんで、ガイさん、二人で任務に行ってきてくださいよ。仲良いんでしょう?」
「それは駄目だ。これは五代目火影の指示だからな。それにな、オレとカカシはただ仲がいいのではない、永遠の……」
と言いかけた所でガイの言葉は呑気な表情でやって来たはたけカカシの言葉によって遮られた。
「いやー、遅くなってごめんねー。ちょっとそこに迷子の子供が」
は知っていた。カカシがいつも教え子達にこんな言い訳をしては集合時間に遅刻していることを。
カカシがいくら遅刻してこようと、ガイは全く気にしていないらしく、「やあ、遅かったな。待ちくたびれたぞ!」と言っていたが、待ちくたびれたのは自分の方だ、とは思った。なぜなら、ガイがここへ来たのも集合時間の1分前だからだ。なんでも弟子の修行に付き合っていたら遅くなったらしい。おそらくそれは本当の事だろうとは思った。はといえば、遅刻ギリギリの男と、思いっきり遅刻している男とは正反対だった。集合の15分前にここに着いた。要するに、30分以上ここで待っているわけだ。
「急ぎましょう、もう20分オーバーですよ?」
「その前に、リーダーと隊列を決めないとね」
とカカシは言うが、そんなものを悠長に決めている暇はない。
「リーダーはカカシさん、隊列はガイさん、カカシさん、私に決まってるじゃないですか」
「えー、オレガイの後ろ行くの? なんか嫌だな」
こんな時に限ってとんでもないわがままを言い始めるカカシという上忍には苛立ちを隠せなかった。
「あーもう! じゃあ、どうしたらいいんですか? 勝手に決めてください!」
そう言い出すのをまるで待っていたかのようにカカシが言った。
「それじゃ、お言葉に甘えて。ガイは後ろ、オレとが前ね」
「え、なんで私がカカシさんと並列しなきゃいけないんですか?」
自分から勝手に決めろと言っておきながら、早速は不満を漏らした。なぜわざわざ並列する必要があるのか理解できなかったからだ。それに、この男が横並びになると、ちらちら見てきて集中できないとつい先週学んだばかりだった。
「んー、じゃあ、が前でオレが後ろにする?」
「ああ、それなら別にいいですけど」
「よし、じゃあそれで」
と、カカシの意見でまとまりかけたところだった。
「ちょっと待て。オレの意見はどうした」
最大の遅刻者を一番心を広くして待っていたというのに、まるでツーマンセルのように会話が進む事に、ガイは納得できなかった。そんな彼には早くしてよ、と言わんばかりに口を開いた。
「じゃあ、ガイさんはどうしたいんですか?」
「オレはだな、」
「あー、はいはい。時間も無いし、もう行くよー」
時間がないのは確かだが、時間が無くなったのは紛れもなくこのカカシという男のせいである。だが、それは既にこの人物の念頭に無いらしい。なんだかんだ言いつつ、、カカシ、ガイの一列になったのだが、隊列が守られることは無かった。
「カカシさん、隊列を乱さないでください!」
「あー、ごめんごめん。ついいつもの調子でね」
「それって、私が遅いってことですか?」
「いや、そういうことじゃなくてさ、ほら、子供達っていつも先を急ぎたがるじゃない」
「やっぱり、それって私がその下忍より遅いってことじゃないですか!」
そんなやり取りをしながら目的地へ向かう一行だが、これは一応極秘任務だ。
「っていうか、こんな任務になんで三人も必要なんです?」
は思った。なぜあんな簡単そうな任務に上忍が三人、しかも、ガイとカカシが必要なのだろうと。もしかすると、この二人、担当下忍が修行中だからと暇を持て余しているのではないかと。
「もしかして、ついてこなくていい任務についてきてませんか?」
の言葉にカカシは恐ろしくのんびりした口調で答えた。
「そんなわけないでしょ。いくら担当下忍が修行してるからってさ〜」
「ほんとに? でも、どう考えてもこの極秘任務にスリーマンセルはどうかと……」
そう、これは極秘任務なのだ。五代目火影の借金取りを追っ払うという……。
「それは綱手様の借金が恐ろしい額だからじゃない?」
「え、そういう事ですか? なんか面倒くさいですよねー」
「だよね。そうだ、ガイが先に行ったら借金取りもビビるんじゃないの?」
「あ、そうですよねー。絶対ビビって逃げますよ」
「ガイ、お前やっぱり先頭に行ったら?」
言いたい放題言われてガイがすぐに「いいよ」と言うはずがない。
「断る!」
その声に二人は顔を見合わせた。
「えー、じゃあ、やっぱりこのまま行くしか無いですね」
「んー、そうだね。オレとで行くしか無いよね」
と言って先を急ぐ二人だが、ガイは不満気に言った。
「一列じゃ無かったのか、カカシ」
「ああ、そうだよ。でもやっぱり追いついちゃうから仕方ないでしょ」
「ほら、やっぱり私が遅いってことじゃないですか!」
「遅いわけじゃないんだけど、まー、そうカッカしないで、ね?」
ガイの目の前を進む二人のやり取りは借金取りを見つけるまで続いた。
カカシは気づいていた。ガイがと一緒に移動したいと密かに思っていた事を。そして、ガイも気付いていた。カカシがあえてと並列していることを。
「あー、やっぱりガイさんとカカシさんが前に行ってください。私、接近戦はどうも苦手で」
と言って、は後ろに下った。苦手と言われて無理に前を行かせるような二人ではなかった。
最終的にはガイとカカシが並列し、がその後ろを行くという体制に変わった。だが、またしてもカカシはの近くに寄っていた。
「接近戦って言ったら、やっぱりガイだよね」
「カカシ、お前って奴は!」
「え、何、それとも自信が無いの? それじゃー仕方ないよね」
「そんな訳があるか!」
「ちょっと! 二人とも静かにしてくださいよ! ターゲットが逃げちゃうでしょう? あ、逃げていいんでしたね」
そんな感じで上忍三人の任務は遂行されていただなんて、彼らの教え子は知るはずもない。まさか教え子達が懸命に己に向き合い、泣きたいような修行をしている最中、こんなゆるーい任務をしているだなんて。