夏。祭りの季節だ。

 その日、木ノ葉図書館の職員である私は図書館前でせっせと準備を進めていた。書籍の入れ替えに伴い、廃棄になる物を無料配布することになったのだ。そろそろ祭りも始まる頃だろう。一つ奥の通りの露店から、鉄板焼きのソースの香りが漂ってくる。後で交代することになっている同僚は嬉々として会場へと掛けていったばかり。
 お祭り会場とは程遠い図書館前は、閑古鳥が鳴いていた。


「お祭り行かないの?」
 はたと立ち止まった人影に顔をあげる。らしくないと声をかけてきたのは図書館の常連、春野サクラちゃん。理由を告げると彼女は直ぐになるほどねと頷いた。

「でも、浮かない顔はそれだけ?」
「え? べ、べつになんでもないよ?なんでも!」
 はははっと笑ってごまかすと、アイスグリーンの瞳に凝視された私は思わず仰け反った。私があなたの心を見抜いてあげるわ!と言われた気がした。
「まさか……失恋?」
「そうじゃない……と、思うけど……」
 あれは失恋以前の問題だ。私はいつぞやの事を頭の隅にしまい込んだ。ふ〜んというサクラちゃんはとりあえず納得したようだ。
「でも、恋に悩んでるのは間違いないわね」
 断言する彼女を私はただ呆然と見つめた。なぜなら、確かに今の私は彼女の言う通りだったから。
「どうしてわかるの?!」
「勘よ、カン!」
 忍者はそんな感も備わっているのか、と思ったが、それは所謂『女の勘』というものらしい。



 楽しいはずのお祭。それが上の空になってしまったのは、同僚の何気ない一言だった。
『それって、本当に恋っていうの?』
 雑誌の<お悩み相談vol.96>を読みながらぽつりと呟いた彼女の一言は、ずっと抱いていた素朴な疑問が漏れ出したかのように私の中で妙に響いた。
—— 私の感情は、恋じゃないの?


「憧れか、恋か。かぁ……」
 サクラちゃんはう〜んと唸りながら腕組をした。その間、図書館前は人通りが増えることはなく、変わらず少ない。むしろ、立ち話をしてるのはサクラちゃんと私だけだった。祭りの日に古本市をするのは間違いだったのかもしれない。少なくとも、この木ノ葉の里ではそうだったかもしれない。最近は本に興味をもってもらうのも大変だ。そんなご時世なのにわざわざ祭りの日に、しかも、廃棄本を手にしようとする若者は誰一人として居なかった。今は新品の本でさえ売れ行きが伸び悩む、そんな時代だ。(と言っても、私も昔のことは然程詳しくないけれど。)


「仮にだけど、好きな人が他の女の子と楽しそうにしてたらはどう思う? もやっとしたりする?」
「うーん、ちょっとはもやっとする……のかな?」
 と言っても、六代目様の場合はそんなことは日常茶飯事だ。一々もやっとしていては気が持たないかもしれない。
「そうよね、私もそう。何も思わないのならそれは恋じゃないと思うの。見てるだけで幸せ、片想いでもいいやって気持ち。それって、有名人に憧れるのと同じようなものだもの」
「じゃあ、……恋は?」
「恋は……相手のことをもっと知りたい、近づきたい!って思う気持ちがどれだけあるかって事じゃないかしら。あとは、特別な存在になりたいと思うかどうかもポイントかもしれないわね」
 あくまでも私の意見よ、と言うサクラちゃんの言葉を私はひしひしと噛み締めた。六代目様を見ているとドキドキする。同い年の女の子と話していると、少しは嫉妬するかもしれない。でも、独り占めしたいか、と言われると疑問だった。私が出会った頃は上忍だったカカシさんは今は火影様。暗黙の独占禁止法には逆らえない。例えば図書館に毎日のように顔を出すマダムたち。そして、アカデミーの保護者などなど。この里には六代目様にひと目お目にかかれるだけで一日幸せになってしまう人がごまんと居る。
 ということは、私の思いは単なる憧れにすぎないのだろうか。サクラちゃんが言うには、諦めようとしても諦められないものが恋愛の厄介な部分らしい。

「サクラちゃんは恋するとどんな感じなの?」
「私?私は……会うだけで顔がふにゃ〜ってなりそうになったり、良いところ見せたくて頑張ったりして、でも失敗してがっかりして。少しでも気にかけてもらいたくて、自分だけを見てほしくて。オシャレにも気を遣ったり、色々頑張っちゃって。毎日が勝負って感じよ!今日だって直前まで浴衣の柄に迷って、大人っぽい紺も捨てがたかったけど、 それなのに……」
 何か思い出したのか、サクラちゃんはがっくりと肩を落とした。私は聞いちゃいけないことを聞いてしまったようだ。
「えっと、ごめん」
「あ、気にしないで。私の場合はいつものことだから」
 サクラちゃんはははっと明るく笑みを見せた。そして、「この本懐かしい〜! もう絶版でないのよね。あ、これも知ってる!」と言いながら誰も見向きもしなかったワゴンの本に夢中になって目を輝かせる。
「ねえ、本当にタダで貰っていいの?」
「うん。でも、お祭り始まっちゃうよ? 好きな本があるなら私が預かっておくけど」
「平気平気。私は浴衣を着たかっただけだから。あとであんみつ屋に寄れたらそれで十分。大満足よ」
 てっきり友達と待ち合わせでもしているものだと思っていたが、そうではないようだ。白地に淡い桃色の花柄、夏浴衣がとても似合っていた。髪の毛もサイドを編込みにしていてとっても可愛い。なのに。こんな勿体ないことをさせているのはどこの誰なのか。
 こんな可愛い女子を放っておくほど木ノ葉の男どもは凡蔵ではないのに。

「ねえ君一人なの? こんなところに居ないで祭りの方に行かない?」
 案の定、男はお決まりのフレーズで声を掛けてきた。
「すみません。私、興味ありませんから。お断りします」
 ふいっと顔を逸らしたサクラちゃん。かんに障ったのか、男の表情が少し不機嫌になった。すると男はサクラちゃんの手を強引に掴んだ。
「ちょっと、やめてください!」
 むっとするサクラちゃんを男たちは楽しんでいる。もちろん、ぼーっとその様子を見ているほど私は呑気ではない。こんな風でも一応奈良一族だ。めらめらと闘志が湧く。ここは私が一肌脱ぐしかない!
「嫌がってるのがわからないんですか?」
 すっとサクラちゃんの間に立った。
 つもりだった。しかし、困った。気づけば男は反対方向に立っていた。というのも、この男も忍だったのだ。当たり前といえば当たり前かもしれない。もうひとりの男がはっとしたように表情を一変させたが、この時、私はなんのことだかまったくわからなかった。但し、その男の「もう止めとこうぜ……?」という言葉には同意だった。

「あ!」

 手を伸ばした時には遅かった。男にカートを蹴られ、路上に本が散乱する。
「いたっ!」
 私の足元に数冊の本が落ちてきた。しかも、最悪なことに落ちてきたのは百科事典。痛いし、情けないし。早くサクラちゃんを……、サクラちゃんを?

 しゃーんなろー!

 気づけば、そんな掛け声とともに男たちはひっくり返っていた。私はサクラちゃんと知り合ってそこそ経つ。実に今更だが、サクラちゃんはシカマルやおじさん達とは違う術が得意だということを、初めて知った。

「軽めのつもりだったんだけど、ちょっとやり過ぎたかしら……」

 サクラちゃんはひび割れた地面を見つめ青ざめた。地面は埋めればどうにかなるよ、と言って励ましたが、それでもサクラちゃんは心配そうに眉を寄せた。蹴られて散らばった本は砂まみれで、落ちた拍子に角が折れたり、裂けてしまったものがいくつかあった。
「あ、サクラちゃん浴衣が……」
「え? あ、これは自業自得ね」
「でも、」
「大丈夫! これくらい洗濯すればどうってことないから、気にしない気にしない!」
 汚れた浴衣を見ても、サクラちゃんはケロッとしている。
 今日はせっかくのお祭りなのに。そう思うと、なんだか無性に悲しさがこみ上げてくる。

「カ、カカシ先生!」

 カカシ先生?
 はっとして顔をあげると、いつの間にか六代目様が立っていた。
「ちょっと、サクラ。これどういう事よ……」
 物音がしたから立ち寄ってみれば、と、六代目様は困惑した様子で地面を見つめた。ちなみに六代目様は巡回の途中だったらしい。そして例の男たちはといえば、さすが忍。逃げ足だけは早かった。
「ええと、コレはですね……」
 このままではサクラちゃんが咎めを受けてしまうかもしれない。
「ろ、六代目様、これは違うんです! 男たちがナンパをして、」
「そうそう!その男たちがワゴンを蹴飛ばしたから私頭に来て、それで……ちょっと力加減が……」
 私の弁解ではどうにもならないのかもしれない。みるみる表情が曇る六代目様の様子に私は困惑した。それは愛弟子であるサクラちゃんも語尾を弱めたほどだった。
「あの……六代目様、本当にサクラちゃんは何も悪くないんです」
 私は地面に落ちた本を一冊ずつ砂を落としながら拾った。もう最悪だ。気分はどん底だった。あの男たちさえ来なければ、こんな日に古本市をするんじゃなかった、と何度も思いながら私は本を拾うしかなかった。

「サクラはともかく。、その足の怪我は?」
「え?」
 六代目様に指摘され、足元を見るとつま先から血が出ていた。せめて足先のある靴を履いていれば、とまたしても後悔の嵐が吹き荒れる。
「これは、百科事典が……でも、これくらい大丈夫です」
 それでも本を拾おうと腰を屈めると六代目様が私の手を掴んで止めに入った。
「本ならオレが拾うから。サクラ、診てやって。なんか腫れてるような気がするけど」
「待ってください、六代目様それは私が、」
 しかし、六代目様は私の言葉など全く聞き入れてくださらない。慌てて駆け寄ってきたサクラちゃんは「私の浴衣なんて心配してる場合じゃない、何で早く言わないのよ!」と怒りながら処置をしてくれた。
「骨は大丈夫みたいね」
「ありがとう」
 ズキズキとしていたのが嘘みたいだ。医療忍術って本当にすごい。だが、医療忍術に感動している余裕はあまりなかった。


「そのナンパ男ってのは、どっちに行ったか覚えてる?」
「あの……」
 ごくりと息を呑む。六代目様は、たぶん凄く怒っている。こんな騒ぎを起こしたのだから、そうだろう。何か言わなければ、そう思うのに、私は男たちの顔をこれっぽっちも覚えていなかった。

「あの、カカシ先生、」
「……サクラ。オレは今に聞いてるの」
「ええ、わかってます。でも、そんな怖い顔してたらだって何も言えないと思いますけど?」
「……え」
「ナンパ野郎なら私が顔を覚えてるから大丈夫!あとできっちりシメておかなくちゃ。それから、クリーニング代も請求しないと!」
 六代目様は息巻くサクラちゃんを尻目にぽつりと言った。

「オレ、そんな怖い顔してた?」
「い、いえ…………」
 私は思わず視線を逸らした。とても不自然だったに違いない。びっくりした、と言えるはずがない。
「あー、……ごめん。に怒ったわけじゃないから」
 ガシガシと頭をかく六代目様は眉を下げて微笑んだ。私が知っている、いつもの六代目様だ。それから六代目様は地割れをあっという間に元通りにしてくださった。
「はぁ……。サクラ、次なんかあったら自分で直してよ?」
「ええっ!」
「任務外。この意味わかる?」
「はい……」
 しょんぼりとするサクラちゃんを見た六代目様は振り返って言った。

 突如名を呼ばれ、背筋が伸びる。
「ハイっ」
「こういう日は浮足立った奴も多いから気をつけないとダメでしょ。今回はナンパくらいで済んだかもしれないけど、人通りが少ない場所って結構物騒だから何が起こってもおかしくないし、それから、」
 と、まだまだお説教が足りないと言わんばかりの六代目様を遮ったのはサクラちゃんだった。
「カカシ先生の言いたいことはわかるけど、は未遂。だから、長いお説教は明日でもいいでしょ?」
 今日はお祭りなんだから。
 そう言ってため息を吐いた。
「それに、は私とナンパ野郎の間に立って文句を言ってくれたんです。それで、あんな事になっちゃって……」
 確か危ないことには変わりないけど、とサクラちゃんもお説教モードになりかけた、その時。六代目様はなんとも気の抜けた声で言った。
「あー、そういうこと? は何もされてないわけね」
 私が頷くと、六代目様はじゃあ問題ないねと呟いた。
 それがサクラちゃんの気に触ったらしい。
「ちょっと先生、それどういう意味ですか?!」
「だって、お前は自分でどうにかできるでしょ。というか、既にビビらせちゃったようだし。クリーニング代は……彼らはあまり関係ないっちゃないよね」
「ひっどーい!、聞いた?! カカシ先生って時々こういうところがあるのよね。私も女の子ってこと忘れてるんだから」
 怒ったサクラちゃんを六代目様はなだめる気はないらしく、「さすがに忘れちゃいないよ」と言いながら、どこ吹く風でワゴンに入れた本に目を通していた。

「でも、本がね……」
「いいんです、もとは廃棄になる本だったので……。まだ修理できる物もありますから」
 数冊手に取る。ぱらぱらとページを捲ると製本が解けてしまいそうなものもあった。あ、よかった。幸いにもサクラちゃんが好きだと言っていた本は無事だった。綺麗に手入れをして引き渡そう。
「今度はアカデミーで開いてみたら?」
「え?」
「門の前だったら一般人も通るし、人通りも多い。子供たちも興味もってくれるかもしれないよ?」
 サクラちゃんのように本を読んでくれる子が来るかもしれない、そう思うと胸が弾んだ。
「……そうですね、そうします!」
「じゃ、今日は閉店ってことで。足は大丈夫?」
「はい、サクラちゃんのおかげでばっちりです」
「そりゃ良かった」
「カカシ先生、ありがとうございます」
「……」
 キョトンとする六代目様を見て私ははっとした。
 間違えたー!
「ちがっ! サクラちゃんがずっと先生って言うから、つられて」
 ボッと頬が燃え上がったように熱くなる。
ったら、顔真っ赤よ? リンゴみたい」
 サクラちゃんに指摘され、ますます頬が赤くなったような気がした。手で仰ぎながら落ち着くのを待つ。
「んー、なかなか新鮮だったよ。少しびっくりしたけど」
 と、六代目様が笑ってくださったのは救いだった。

 店じまいだと六代目様とサクラちゃんに手伝ってもらいながらワゴンに布をかぶせ、隅の方へ寄せる。せっかくだからお祭りに行って来たら?という六代目様の進めにより、私はそうすることにした。
「あ、でも、同僚が戻ってくるかも……」
 行き違いになったら大変だ。ここで待ってなきゃ。そう思っているとサクラちゃんが言った。
「それなら大丈夫ですよね、カカシ先生?」
 サクラちゃんにじっと見つめられた六代目様は、まあね、とぽつりと言った。
「なにかあるの?」
「見てればわかるわよ」
 私は思わず六代目様の顔をちらりと盗み見た。



□ □ □




「カカシ先生はどう思います?」

 私たちはお祭り会場へと着々と近づいていた。六代目様は巡回、そう言っていたけれど、どこまで“巡回”なのか、とサクラちゃんが疑問を呈した所で、話は戻る。
 それはずばり、憧れと恋の違いについての話だ。
 六代目様は、どう思うのか。

 私はサクラちゃん以上にその答えに興味津々だった。しかし。
「うーん……」
 大難問だったのか、六代目様はずっとこの調子だ。
「そんなに考えることじゃないと思うけど……」
 と、サクラちゃんはつまらなそうに言った。火影だってわからない事もあるのだろう。もう答えは出ないのだと密かに結論づけていると、はっと閃いたように六代目様は呟いた。

「やっぱり……、トキメキってやつじゃない?」

 六代目様が絞り出した答えにサクラちゃんは、目を見開いて固まった。
「サクラちゃん?」
「あ、ごめん。カカシ先生があんな事言うとは思わなかったから……」
 六代目様の恋愛観はトキメキがあるかどうか。確かにときめかなければドキドキもない。ドキドキもなければ興味もない。興味がなければ何も始まらない。やっぱり恋はトキメキにかかっている。
 だとしたら、六代目様がときめくのはどんな人だろう。六代目様はなんでも出来るすごいお方。釣り合うように才色兼備……というのなら私はフィールド外も良いところだ。そんな事を考えていると、六代目様はぽつりと言った。

「そもそも、……トキメキってなんだっけ?」

 それを聞いたサクラちゃんはとても大きなため息を吐いた。だが、私も同じ気持ちだった。何しろ六代目様にトキメキがない限り、ドキドキもしなければ、興味もない。そう、つまりそれは、相手のことを知りたいとも思わないということだ。そして当然のように……。
 私は六代目様の顔を見た時、ドキッとした。サクラちゃんはカカシさんの事をなんでも知っている。さっきのように怒った時もそう。サクラちゃんとカカシさんは同じ班に居たのだから、当たり前だ。それでも……。同じ時間を過ごせるって、どんな気分なんだろう。正直、私はサクラちゃんが『カカシ先生』と言う度に羨ましいと思っていた。


 気がつけば、すでに祭り会場についていた。笛の音色やドンドンっと太鼓の音を聞きながら、目につくのはカップルばかりだった。すると突然、「あ」とサクラちゃんが声を上げた。視線の先にはさっきのナンパ男たち。すぐにかけ寄ろうとする彼女を六代目が制した。

「まあ、慌てずじっくりいこうじゃないの」
 その様子を見たサクラちゃんは不思議そうに言った。
「どうでもいいんじゃなかったんですか? 私はクリーニング代があるけど……」
「どうでもいいわけないでしょ」
「え?」
 サクラちゃんはちらりと私のほうを見た。私はどきりとした。まさか、……。
「カカシ先生、それはどういう……?」
「どうもこうも……アイツらに備品壊されちゃったからね。そういうのはきっちり弁償してもらわないと困るのよ……」
と、六代目様は目の色を変えた。一方、サクラちゃんはまたしても大きなため息をついたのだった。


「あ、!」
 顔をあげると、図書館の同僚が手を振った。
「聞いたよ、大丈夫? 突然六代目様が来るからびっくりしちゃった」
 慌てて辺りを見渡すと、既に六代目様の姿はどこにもなかった。サクラちゃんも居なくなっていた。貴重な証人だと言って連れて行ってしまったのを思い出した。

「はい、これ」
「どうしたの?」
「六代目様から」

 もうひとりの六代目様。
 彼女はそう言ってりんご飴を差し出した。確かに渡したからねと同僚は笑みを見せる。

 たかが、りんご飴。
 まるで子供だましのようだ。
 それなのに。それなのに、私の鼓動はドキドキとうるさい。

「お祭りっていったらこれかな?って。六代目様って意外とわかってるよね」

 同僚は好物の胡瓜の一本漬けをかじりながら呟いた。

Act.6 その他備品、壱阡五百両也