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 長かった長期任務が一段落し、木ノ葉の里に帰ってきたはのんびりと休暇を楽しもうと街へ出かけていた。
 とある路地を曲がり、団子屋にでも行こうとしている時だった。どこかで見た顔の人物が、ああだこうだと下忍と思しき三人と話し込んでいる。しばらくその様子を見て、は気がついた。
「こんな所で何してんの、カカシ……の、おっかけ、カメラマンさん」
 とっさに目の前の男のジェスチャーと格好を見てそう言ってみたが、それで合っているのか、は目の前の男と視線をあわせた。どうやらその設定で合っているらしい。
「ああ、ちゃん。こんな所で会うなんて思わなかったよ」
「え、ああ、どうも……」
 いつもより若干高い声で”ちゃん”なんて言われた事もあるが、何より目の前の人物の顔に違和感を覚えずにはいられなかった。二人の会話を耳にして、下忍達は「この人誰?」と不思議そうに見ている。
「ああ、この人はね……僕の彼女なんだ」
「……実はそうなの、初めまして」
 さっきからこの男は何を言ってるんだと思いながらは横目でその人物を見た。とりあえず話をあわせているが、とにかく状況がよくわからない。はとりあえずその下忍達に聞いてみることにした。
「君たちはこの人……彼と何をしてるの?」
「カカシ先生の素顔を暴くのを手伝ってもらってるんです」
 ピンク色の髪の女の子の言葉に、はまた隣の男を盗み見た。どうやら、彼らはカカシのマスクの下が気になって仕方がないらしい。にこにこ笑いながらこちらを見る男を見たは「へー、そうなんだ」と言ってとりあえず話を合わせることにした。だが、ますます意味がわからない。なぜなら、若干メイクはしているが、この隣にいる男こそ、その下忍達が言う、素顔のはたけカカシなのだから。それに、この男の彼女とか無駄な設定は必要ないような気がしてならない。そんな事を考えているとは思わない下忍達は「今度こそカカシ先生の素顔を見る!」と息巻いていた。どうやらこういうことをしているのは初めてではないようだ。

 話を聞いていると、この男の名はスケアと言うらしい。
「じゃあ、お姉さんもスケアさんと同じでカカシ先生の素顔知らないんだ」
「そうなの、どんな顔か見てみたいな〜」
 そんな事を言いながら、はちらりとスケアの横顔を見た。すると、笑みを返され、は思わず視線を外した。
 久しぶりに休暇を楽しむ予定だったのに、なぜだかわからないが、スケアに扮したカカシとその下忍達と共に木ノ葉の里で情報収集に勤しむ羽目になってしまった。しかも、休憩と言いながら途中で茶屋に寄ったりする事になり、カカシの隣で団子を食べなければならなくなったのだ。団子を食べ終わった下忍達が近所で情報を聞きまわっている間に、は隣のカカシに言った。
「ね、なんでこんなことしてるの?」
「ほら、もうすぐ中忍試験じゃない。だから情報収集のお勉強をさせてるわけ」
「情報収集って……。なにも私まで巻き込まなくてもいいじゃない」
「そりゃね。がいきなりバラそうとするのが悪いんでしょ」
「だって知らなかったんだからしょうがないでしょう?」
 そんな会話をしていると、下忍達が戻ってきた。店を出て歩いていると、サクラと言う女の子が囁いた。
「ねー、スケアさんって、手を繋いだりしないの? だって恋人同士でしょ?」
「えっ、……」
 が焦っていると、不意に手のひらが大きな手で掴まれる。
「え、ちょっと」
「そういうのも良いかもね」
 なんて言いながら、カカシはの手を握ったのだ。
 カカシが余計な設定をするせいで、とは思わずにはいられなかった。ゆっくりするどころかデートまがいな事をしなければならなくなり、にとっては気が休まらない一日となった。

 結局、なんだかんだ言いつつ、カカシの素顔を見ることができなかった下忍達はとぼとぼと帰っていった。正確には気付かなかった、と言ったほうが良いかもしれない。せっかくのヒントもわからないのは仕方がないかもしれないと名前は思った。
「スケア……スケアって、スケアクロウって事?」
「さあね」
「さあね、か。はー、せっかくの休暇だったのにな」
「まあ、いいじゃない。団子も食べれたんだからさ」
「……それより、もういいんじゃない?」
 はそう言って手を離そうと指を動かすが、カカシがそうさせなかった。
「どこであいつらが見てるかわかんないしね、ちゃん」
 と言いながら、カカシはポケットに手を突っ込んだ。もはや顔と声、服装以外はカカシそのものである。
「そうだ、せっかくだからキスでもしちゃおうか」
 だって恋人同士だし、と言いながらカカシはちらりとの方を見た。瞳の奥から感じるのは、獲物を見るかのような鋭い視線だ。それもまたカカシの視線そのものだった。
「なに言ってんの……」
 そんな事を言いながら、結局の家に着くまでそんな調子だった。


 家についたはどっと疲れたような気がした。
 せっかくの休日があっという間に終わってしまった。
 夜、布団に入りながらは思った。どうせならキスまでしとけばよかった、と。


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