≪ 四 ≫

 風影の帰還により、里の者は安心したのか落ち着きを取り戻し始めた。一方で相談役の葬儀で慌ただしくなる中、は武器庫で一人黙々と忍具の整理をしていた。

「はい」
 ノックの音に返事をするや否や、ガラッと派手な音を立てて扉が開く。
「こんな所に居たのか」
 顔を出したのは喪服姿のテマリだった。
「ばらばらになってしまったら後が大変で……あ、葬儀にはちゃんと間に合いますから」
「それはいいが、はたけカカシがの事を探していたぞ」
 他にも何か話したのだろうか。忙しいはずの彼女がわざわざここへ来た事に疑問を抱きつつ、は作業の手を止めた。
「部屋の鍵がどうとか言っていたが、」
 その声色はいつもと変わりなく、は安堵した。
「……わかりました、すぐに伺います」
 が武器庫を出ると、付け加えるようにテマリが言った。
「カカシは三番の医務室に居るからな」
 三番医務室……。帰還したときには支えられながらも歩いていた気がした。大きな傷を負っているようには見えなかったが、違ったのだろうか。
「そんな大怪我をされていたんですか?」
「行ってみればわかるさ」
 テマリの言葉に頷くと、は武器庫を後にした。



 プレートを見たは控えめにノックをし、そっと病室のドアを開けた。一通り処置が済んだのか、医療班の姿はない。
「失礼します……」
 その声に気がついたのか身動きをとろうとしたカカシが小さく唸った。
 慌ててベッド際に駆け寄る。カカシの顔からは疲労した様子が見受けられた。あの組織がどれほどのものなのか、には計り知ることさえ困難だった。風影さえ太刀打ちできないような忍と戦ってきたのだ。外からはわからないような損傷を受けていてもおかしくはない。
「大丈夫ですか、痛みますか?」
「ああ、平気。大した傷はないから」
 そう言って、カカシは苦笑いした。そのわりには、ベッドから起き上がるのでさえ困難な様子だ。困惑するに「まあ、いつものことなんだけど、」とカカシは言った。


—— まあ、そんなわけで、心配しなくていいから」
 要は瞳力の使いすぎという事らしい。寝ていたらそのうちよくなるというよりも、寝ているしかないということのようだ。思わぬ欠点を耳にしたは内心驚いていた。
「部屋の鍵、でしたよね」
 は宿から預かったスペアキーをポケットから取り出すと、「あー、それ」とカカシは申し訳なさそうに言った。
「悪いけど解決したみたい」
「え?」
 数分前まで鍵がないと大騒ぎしていたらしいが、結局青年の思い違いだったらしい。
「でも、話をするにはちょうどよかったかな」
 と言うカカシを、は黙って見つめた。


「立派なくノ一になったね、あの子」
 カカシは懐かしそうに呟いた。あの時の幼女がテマリであると、いつ知ったのだろうか。もしかしたら、あの時点で四代目の娘だと知っていたのかもしれない。
「あの……ごめんなさい」
 その言葉に、カカシは不思議そうな顔をした。
「私、……」
 本当は奪われたわけではないのに、嘘をついてしまった。木ノ葉を利用した。その事がずっとひっかかっていたのだ。俯いたにカカシがぽつりと言った。
「でも、風影は君を罵倒しなかったはずだよ」
 あの場に居た者すべてが怒号を覚悟していたのに、まるで何事もなかったかのような風影の振る舞いに、誰もが首を傾げた。
 なのに、どうしてわかったのだろう……。
「なぜそう思うのか、聞いてもいいですか」
 カカシは天井を見つめた。何かを思い返すような、そんな目をして。
「それはね、君が一番大事なものを持って帰ったから。風影にとって一番大切なものを……」
 四代目風影という人物は決して甘い人ではなかった。忍というのはどうあるべきかと散々説いてきた人だ。だから、そんなはずがない—— はそう思った。だが、カカシを否定もできなかった。
 もしあの時、カカシが止めなければ……いつまでもじっとしては居られなかったはずだ。特に、クナイを放つタイミングを見計らっていたあの野太い声の忍は。木ノ葉の暗部がどういう組織であるのか、知らないわけではない。
 今となっては風影が何を考えていたのかを知る術はない。
 一つ確かなのは、この人に助けられたという事だった。



 翌朝、が詰め所に向かう頃には木ノ葉の忍達は帰郷の準備を始めていた。
 目立たないように、ひっそりと木ノ葉の忍が待機している場所へ向かった。
「すみません」
 事務連絡などで様々な話し声が聞こえる中、いち早くに気がついたのは、カカシ達と同行していたあの医療忍者の女の子だった。
「あ、あの時の。どうしました?」
「これをあなたに預けてもいいですか?」
 は小さな紙袋を差し出した。中身は乾燥した薬草だ。昔の記憶を頼りに一晩かけてやっとのことで見つけ出したものの、煎じるには時間がかかり、彼らの出発に間に合いそうになかった。
「煎じるのにコツが必要ですが、うまくいけば回復が早まるかもしれません」
 袋の中を確認した彼女は驚いた様子で「これ、」と呟いた。砂隠れにある希少な薬草だと気がついたようだ。
「いいんですか、そんな貴重な物を頂いて」 
「はい。これくらいしかできる事はありませんけど、お礼です」
「ありがとうございます。里に帰ったら、さっそく試してみますね!」
 力強い返事に、はほっと胸を撫で下ろした。

 木ノ葉の忍が帰郷すると知り、里の者はこぞって見送りに出た。あまりの人の多さに圧倒され、は遠くの方からその様子を見守ることにした。
 別れの挨拶も何もない。
 だんだん小さくなっていく彼らを見ていると、不意に名前を呼ばれは振り返った。
「カカシと知り合いだったのか?」
 はテマリの質問にはいつも真正面から答えてきた。
 だが、この日は違っていた。
「……初対面ですが」
「さっき、の方を見ていたような気がしたんだが……気の所為か」
 それに彼女は気づくこともなく、の前を颯爽と歩いた。